組織的マタリング尺度(日本語版)・テストとは?

「自分の仕事は意味があるのか?」

科学が証明した「マタリング」が職場を変える理由

── ポジティブ心理学の最新研究から読み解く、仕事の満足感・昇進・定着率の真実 ──

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「頑張っているのに、誰にも気づいてもらえない」「自分の仕事が会社の役に立っているのか分からない」――そんな気持ちを抱えたことはありませんか? 実はこの感覚、単なる気のせいではなく、あなたの仕事への満足感、キャリアの成長、さらには会社への定着意欲に深く関わっていることが、最新の科学研究で明らかになりました。

2019年に『The Journal of Positive Psychology』誌に掲載された論文「Mattering is an indicator of organizational health and employee success」(Reece, Yaden, Kellerman et al.)は、ペンシルバニア大学ポジティブ心理学センターのMartin Seligman博士やRoy Baumeister博士ら8名の研究者が共同で執筆した、注目度の高い研究です。本記事ではこの論文の内容を、誰にでも分かりやすく解説しながら、あなたの日々の仕事に活かせるヒントをお届けします。

「マタリング(Mattering)」とは何か?

マタリング(Mattering)とは、「自分の行動が世界に何らかの違いをもたらしているという感覚」のことです。哲学者のウィリアム・ジェームズはかつてヘレン・ケラーへの手紙にこう記しました。

「あなたのすることが違いをもたらすと信じて行動せよ。実際にそうなのだから。」

この言葉が示すように、マタリングは「自分の存在と行動に意味がある」という内的確信です。研究では、マタリングを次の2つの側面から捉えています。

  • アチーブメント(Achievement / 達成):自分の仕事の質が組織に実際の影響をもたらしているという実感(古代ギリシャ語でいう「アレテー=卓越した行為」に対応)
  • レコグニション(Recognition / 承認):自分の努力や成果が周囲から認められているという実感(古代ギリシャ語でいう「クレオス=名声・評判」に対応)

4段階の研究で何が分かったのか?

研究チームは「組織マタリング尺度(OMS:Organizational Mattering Scale)」という新しい測定ツールを開発し、合計1,804名を対象とした4つのフェーズで検証を行いました。参加者はいずれもアメリカで週35時間以上働くフルタイム労働者です。

フェーズ1:項目開発とパイロット研究(n=196)

組織行動・社会心理学・ポジティブ心理学・哲学の専門家たちが議論を重ね、当初17項目の尺度を作成。予備調査の結果、マタリングの感覚は自己効力感(自分が成し遂げられるという信念)と自尊心(自分を好きという感覚)のうち、自己効力感との相関が高いことが確認されました。この方向性は、行動の結果に着目する「行動指向型マタリング」という本研究のコンセプトを支持するものでした。

フェーズ2:探索的因子分析(n=569)

項目を8つに絞り込み、統計分析を実施。「達成」と「承認」の2因子構造が確認されました(2因子モデルの適合度:RMSEA=.05、TLI=.99)。また、OMS得点は他のマタリング尺度と比べ、特に強く自己効力感と結びついており(r=.65, p<.001)、自尊心との相関(r=.43)を有意に上回りました(p<.01)。

フェーズ3:確認的因子分析(n=616)

構造方程式モデリングにより、2因子が「一般的マタリング因子」の下位構造を形成することが確認されました(CFI=.98、RMSEA=.06)。自己愛傾向との相関はほぼゼロ(r=−.02)であり、マタリングが単なる自己過大評価ではないことが示されました。

フェーズ4:組織成果との予測的妥当性(n=423)

最終フェーズでは、OMSスコアと実際のビジネス指標との関係を検証。ここで得られた結果が、この研究の最大の「驚き」です。

マタリングが高い人に現れる「5つの特徴」

研究から明らかになった5つの重要な知見を紹介します。

① 仕事への満足度が格段に高い(r=.51)

マタリング得点と仕事満足度の相関係数は0.51(p<.001)。これは「人生全体の満足度」との相関(r=.35)を大きく上回ります。つまり、仕事でマタリングを感じている人は、職場での満足感が特に高く、人生の幸福感にも寄与することが示されています。「仕事の満足度が低い」と感じている方は、もしかすると「自分の仕事が誰かの役に立っている実感」が不足しているサインかもしれません。

② 管理職・リーダー職に就いている確率が高い(t=6.91)

OMS得点の高い人は、マネージャーやリーダー職に就いている割合が有意に高いことが分かりました(t=6.91, p<.001)。特にこの関係を強く引っ張っているのは「承認(レコグニション)」サブスケールです。自分の努力が組織に認められていると感じる人ほど、リーダーとして活躍している傾向があります。

③ 昇進・昇給の実績がある(t=2.26)

過去6ヶ月以内に昇進または昇給を経験した人は、OMS得点が有意に高いことが示されました(昇進:p=.04、昇給:p=.01)。とりわけ「承認」サブスケールが昇進・昇給の強い予測因子となっています。「頑張っているのに評価されない」と感じている場合、日々の成果を周囲に可視化し、承認されるよう働きかけることが重要かもしれません。

④ 離職意向が低い(r=−.31)

「6ヶ月以内に転職・退職を考えている」という意向とOMSスコアは負の相関(r=−.31, p<.001)を示しました。マタリングを高く感じている人ほど、今の職場に留まりたいという意識が強い。裏を返せば、「なぜかこの会社に居続けたくない」という気持ちの背景には、「自分の存在が組織に与える影響への疑念」が潜んでいる可能性があります。

⑤ 幸福感が高く、不安・抑うつが少ない

OMSスコアは主観的幸福感と正の相関(r=.41, p<.001)を示す一方、不安・抑うつとは負の相関(r=−.27, p<.001)を示しました。「自分の仕事が意味を持つ」という感覚は、メンタルヘルスの保護因子にもなり得るのです。

「自己効力感」「自尊心」との違いを理解する

マタリングと混同されやすい2つの概念を整理しましょう。

  • 自己効力感(Self-efficacy):「自分ならできる」という行動前の自己評価。いわば行動の「前払い」。
  • マタリング(Mattering):「自分の行動は影響を与えた」という行動後の自己評価。いわば行動の「後払い」。
  • 自尊心(Self-esteem):「自分が好き・自分には価値がある」という感情的な自己評価。行動とは独立した概念。

研究では、OMSスコアが自己効力感と強く結びつく一方(r=.65)、自尊心との相関(r=.43)より有意に大きいことが確認されました(p<.01)。これは従来のマタリング研究が自尊心に近い「感情指向型マタリング」に偏っていたことへのアンチテーゼです。組織の中で真に意味を持つのは、感情的な「自己肯定感」ではなく、行動の「結果と影響」への認識なのです。

今日からできる!マタリングを高める3つの実践

研究の知見を踏まえ、個人・チームリーダー・組織のそれぞれの視点からできることを考えてみましょう。

個人として:「影響の可視化」を習慣にする

週に1度、「自分の仕事が誰かの仕事や成果にどう繋がったか」を振り返る時間を設けましょう。達成(アチーブメント)の観点から、自分の作業が組織のプロセスやアウトカムに与えた具体的な変化を言語化することが大切です。日報や週報に「影響の記録」欄を設けるのも効果的です。自分の貢献が見えにくい環境では、意識的に「見せる努力」をすることも重要です。

チームリーダーとして:「承認文化」を意図的に設計する

研究では、承認(レコグニション)が昇進・昇給・管理職就任と特に強く結びついていることが示されました。メンバーの良い仕事を公の場で称える習慣、1on1で成果の社会的影響を伝える対話、チームの「貢献マップ」を見える化するなど、承認が自然に循環する仕組みをつくることがリーダーの重要な役割です。「頑張っているのに誰も気づいていない」という状況こそ、優秀な人材の離職リスクが最も高い状態です。

組織として:OMS(組織マタリング尺度)を定期測定する

本研究が開発したOMS(7項目)は、組織の「健全性バロメーター」として機能します。年次エンゲージメント調査にOMSを組み込み、部門別・役職別の傾向を分析することで、どのチームで「マタリングの欠如」が起きているかを早期に把握できます。問題の早期発見は、コストの高い離職や生産性低下を未然に防ぐ最大の対策です。

 

組織における「マタリング(Mattering)」研究のメリット

この研究は、「自分はここで意味のある存在だ」という感覚(mattering)が、組織の健全性や社員の成功とどう関わるかを定量的に示したものです。新しい測定尺度の開発と、その妥当性・有用性の検証が主な貢献です。

理論的な貢献:概念の明確化

  • 行為志向・文脈依存の概念としてのmattering
    「世界に与える影響の感覚」を、特に行動の影響と組織コンテクストに結びつけて定義し直し、心理学・哲学でバラバラに語られてきた概念を整理している (Reece et al., 2019)。
  • 自尊心ではなく、**「自分の行為が役に立っている感覚」**として区別して扱える点が理論的メリット (Reece et al., 2019)。

測定ツールとしてのメリット(OMSの開発)

  • Organizational Mattering Scale (OMS) を新規開発し、4つの研究で検証 (Reece et al., 2019)。
  • 因子分析により、
    • 一般的mattering因子
    • 認知(recognition)達成(achievement) の2下位因子
      を確認(適合指標:CFI=.98, RMSEA=.06)し、構成概念妥当性を示している (Reece et al., 2019)。
  • 組織内でmatteringを定量評価できるため、診断ツール・調査ツールとして実務利用しやすい

OMSとビジネス指標の関連

結果項目 OMSとの関連 Citations
自己効力感 自尊心よりも強い関連(p<.01) (Reece et al., 2019)
仕事満足度 中程度の正の相関 r=.51 (p<.01) (Reece et al., 2019)
リーダーシップ役割 リーダーである人ほどスコア高い (t=6.91, p<.01) (Reece et al., 2019)
昇進(直近) 昇進者のスコアが高い (t=2.26, p<.05) (Reece et al., 2019)
定着(離職の逆) 正の相関 r=.31 (p<.01) (Reece et al., 2019)

Figure 1: matteringと主要ビジネス指標の関連

実務的メリット:人材・組織マネジメントへの応用可能性

  • 仕事満足度、リーダーシップ役割、昇進、定着といった重要なアウトカムと有意に関連しており、人事施策やエンゲージメント施策の指標として使える可能性がある (Reece et al., 2019)。
  • 自己効力感とのより強い関連から、能力発揮・挑戦行動を促す心理的基盤としてmatteringを見る視点を与えている (Reece et al., 2019)。

研究デザイン上のメリット

  • 4つの研究を通じて、
    • 因子構造の検証
    • 構成概念妥当性・予測妥当性の検証
      を行い、単なる尺度提案で終わらず、「組織の健康」と「社員の成功」の指標としての有用性を実証している (Reece et al., 2019)。

この研究の主なメリットは、①組織における「自分は重要な存在だ」という感覚を、行為と文脈に結びついた明確な概念として整理したこと、②OMSという信頼性の高い尺度を開発し、その因子構造と妥当性を丁寧に検証したこと、③仕事満足度・リーダーシップ・昇進・定着といったビジネス上重要な指標との関連を示し、組織開発・人材マネジメントへの活用可能性を具体的に示したことです。

 

まとめ:あなたの仕事は、確かに意味がある

Reece, Yaden らの研究が示したことを整理すると、次のようになります。

  • マタリング(自分の行動が組織に影響を与えているという感覚)は、「達成」と「承認」の2次元から構成される
  • マタリングは自尊心より自己効力感に近い、行動指向型の概念である
  • マタリング得点の高い従業員は、仕事満足度・昇進・定着率のいずれも高い
  • 組織がマタリングを高める文化をつくることで、人材の定着と生産性向上が期待できる

もし今、「自分の仕事に意味があるのか」と迷っているとしたら、まず目の前の一つの仕事が誰かに届いているかを確認してみてください。そしてリーダーの立場にある方は、チームメンバーの成果を「見えるかたち」で称えることから始めましょう。

科学はすでに答えを出しています。あなたの仕事は、確かに意味がある。あとはそれを、あなた自身が感じられる環境をつくることです。

参考文献

Reece, A., Yaden, D., Kellerman, G., Robichaux, A., Goldstein, R., Schwartz, B., Seligman, M., & Baumeister, R. (2019). Mattering is an indicator of organizational health and employee success. The Journal of Positive Psychology. https://doi.org/10.1080/17439760.2019.1689416

※本記事は学術論文の内容をもとに、一般読者向けに再構成・解説したものです。引用データや統計値は原著論文に基づいており、実務への適用は各組織の状況を考慮した上でご判断ください。

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